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ヨーロッパを行く2005フランクフルト&ブダペスト

フランクフルト・ムジーク・メッセ2005リポート

年に一度、東京ドーム5個分の広大なスペースに、2000社もの楽器メーカーが集まり、その最先端の楽器造りの極意を見せ合い、しのぎを削るという、楽器の見本市、フランクフルト・ムジーク・メッセ(以下FMM)。この一大イヴェントに今年も、ローランドのパフォーマーとして参加することになった。旅費や滞在費のみならず、何かと経費のかかる日本人の僕がこうして、毎年このイヴェントに呼んでもらえるのは、ほんとに光栄なことだ。そして、今回のFMMへの参加は、僕の人生の中でも、ちょっとしたチャレンジのあるものであった。

さて、FMMでのパフォーマンスとは、どんなものなのかということは、「ドイツを行く2003前編」にも書いた通り、とてもハードなものだ。そして、そのパフォーマンスの間、いかにお客さんのハートをしっかりとつかみ続けていられるか、という、ミュージシャン(あるいは大道芸人(笑))としてのポテンシャルを常に試される場でもあるのだ!!!! というのも、ここに来るお客さんは、たとえ丸1日かけたとしても、全部見て回れるかどうかわからないくらいの広大なスペースを、何か面白いことはないかとさまよっているから、どんな有名人のパフォーマンスであっても、少しでも退屈な瞬間があれば、そこでお客さんはどんどん立ち去ってしまうのだ!! 

下の写真は、ドイツ人ギタリスト、グンディー・ケラー氏(右)率いる、グンディー・トリオ。

30秒ごとに何か新しいことが起こる、やつぎばやのパフォーマンスと楽しいトーク。新製品のプレゼンテーションに特化した、お客さんを飽きさせない、独自の方法は、グンディー氏が、何年もかけて編み出したものだ。そして、彼らは、ローランドのブースの中で、最もお客さんを集め、そして留まらせることができる。

一方僕は、このイヴェントにおいては、語学力というものをあまり期待されておらず(日常会話的なことは、まあ不自由なくできるんだけどね・・)、もっぱら演奏のみのアーティスティックなパフォーマンスで、お客さんを魅了せよとの指令が出されていた。確かに、今までは、挨拶くらいしかしゃべっていなかったし、それでも、けっこうな数のお客さんを集めることはできた。しかしながら、グンディーたちや、トミー・スナイダー氏が、英語のトークでお客さんを笑わせたりしているのを見るにつけ、ちょっとうらやましいなあ、などとも思っていたのだ。
なぜなら、僕は、日本でライヴをやるときは、けっこうトークもするからだ。この僕本来のキャラが、外国でも出せるのなら、僕の音楽人生がもっと楽しくなりそうだ。

というわけで、今回はトークもちゃんとやってやろう、と決意。台本はほとんど自分で書いたけど、ローランド海外営業部A君(彼は帰国子女)の助言には、ほんとうに助けられた。また、イギリス人サウンド・デザイナーで今回もこのイヴェントに参加している、ハワード・スカー氏も、イギリス英語的な厳密さで、僕の台本に助言してくれたのも、ありがたかった。

さてさて、そんな、いちかばちかの僕の、外国でのトーク&パフォーマンス、これがかなり受けてしまいました!!!! 毎回、黒山(茶山、金山、禿山?)の人だかりになってくれちゃったのだ!!!!!

下の写真は、キャビン内でのひとこま。今回僕がめちゃめちゃ気に入っている、ローランドの新製品「VC-2 Vocal Designer」を使って、Queenの「ボヘミアン・ラプソディー」のオペラな部分をたった一人で再現してしまったりとか、僕の声がだんだん女の子の声のようになって、ミニー・リパートンの「ラヴィング・ユー」を、あの超ハイ・トーンの部分まで、完璧なピッチで唄いきってしまう、といった大技を披露しているところ。

さて、下の写真は、メッセ最終日の打ち上げにて。

トミー・スナイダー氏は、20年にわたり、FMMに出演し続け、お客さんたちを、そのすばらしくも、ユーモアがあって、創造性あふれるパフォーマンスで大いに魅了し続けている。そんな、トミーさんの20周年をお祝いして、トミーさんのこれまでのキャリア(ゴダイゴ時代のアーティスト写真も含む)をコラージュした大きなポスターをプレゼントしているところ。この企画、もちろんトミーさんには内緒で計画されていたもの。そして、驚くトミーさん。「ありがとう」と言うトミーさんの目には光るものが!!!! そして思わずちょっともらい泣きな俺!!!!

そんなわけで、今回のFMMも大成功の内に終了。

2005/04/11

ハンガリーの伝統音楽≠ジプシー音楽。

せっかくドイツまで来たんだから、ちょっと寄り道して帰ろうと思った僕が、今回選んだ土地は、ハンガリーのブダペスト。大作曲家リストが生まれた国でもあるし、バルトークとかリゲティーとか、僕の好きな前衛の音楽家を多く輩出しているこの国には、ミュージシャンの僕が享受すべき何かがある、と、勝手に思ってしまったからだ。
そして、今回僕が宿泊したホテルは、ドナウ川のまん前にあった。
下の写真は、僕が泊まった部屋の窓から。

夜になると、橋とか対岸のお城とかがライト・アップされて、こんな感じ。すげえ!!!!

そんなことはともかく、ハンガリーの伝統音楽とジプシー音楽である。

一般には、これらは混同して捉えられているようだけど、流浪の民ジプシーが、あるときある場所に定住して、それがハンガリーという国になったわけではない以上、両者は決してイコールではないのでは・・? などと何となく思っていた。また、遠くから見たときに、それらが一見似ているように見えても、当事者にとってみれば、その小さな違いが両者を分かつ決定的なものだったりして(例えば、関西の人が大阪弁と京都弁を全く違うものだと思っているように・・)ミュージシャンの僕としては、それらの「違い」をもじっくりと味わいながら、この地で出会う音楽を楽しみたい、と思ったわけだ。

さて、僕が滞在するブダペストのホテルのコンシェルジュに訊いてみた。
「この辺りで、ハンガリーの民族音楽やジプシー音楽が聴けるところはありますか?」
すると、ジプシーのバンドが常時演奏している、ハンガリー料理のレストランを紹介してくれた。その名もレスカカーシュ。「銅の雄鶏」という意味だそう。

夕食までにはまだ時間があったので、ホテルのロビー階にあるお土産物屋さんをのぞく。いかにもハンガリーな刺繍のあるタオルとか、このホテルがかつてお城だったころの、その城の紋章であるところの、鳩が描かれたかわいらしい陶器などが並ぶ中、僕の興味を引いたのは、やはり、棚に何気なく平積みされた数十枚のCD。東京では決して手に入りそうにないように見えるそのCDは、確かにこの地でしか聴くことのできない音楽を収録しているもののようだ。そこで、思い切って、店員のお姉ちゃんに訊いてみた。
「ハンガリーの伝統音楽と、ジプシー音楽の違いはどこにあるの?」
すると、20代そこそこに見えるその店員の彼女は、堰を切ったように、ものすごいテンションで話し出した。
「いい質問です!!!! 確かにハンガリーの伝統音楽(Hungarian folk)とジプシー音楽(Gypsy music)は似ているところがありますが、それは、ジプシーが、滞在する地の伝統音楽を、彼らなりのやりかたでジプシー風に演奏してしまうことに理由があります。彼らはスペインに行けば、スペインの伝統音楽を彼らなりに演奏して、まさにスパニッシュ・ジプシー音楽ともいえるものを作ってしまいます。ジプシーの音楽は往々にして、インストゥルメンタル(楽器のみの演奏)を基本としていますが、ハンガリーの伝統音楽は、唄を伴っているのが普通です。それでは、ハンガリーの伝統音楽とは何か?と言われれば、それは、地域によってかなりの違いがあるために、説明が難しくなってしまうんです。とにかく、ハンガリーの伝統音楽とジプシー音楽は、違うものなのです!!!!」
もはや、今回のテーマの結論にしてしまってもいいような、説得力のあるすばらしい熱弁である。
僕は、彼女が薦めるままに、ハンガリー伝統音楽のCDとジプシー音楽のCDを数枚ずつ購入した。

さて、ハンガリアン・レストラン「レスカカーシュ」の、ジプシー・バンドが演奏するスペースに最も近いテーブルを予約した僕は、ハンガリー名物のトカイ・ワインを飲みながら、彼らの登場を待つ。ハンガリーの伝統料理を出すレストランで、演奏するバンドがジプシー? ここでも確実にコンフュージョンは起こっているのか??!! 
そして登場したのが、彼ら「ロバート・クティ・トリオ」。

リーダーのロバート・クティ氏のフィドル(ヴァイオリン)とウッド・ベース奏者、それにツィンバロンまたはツィンバルと呼ばれる打弦楽器奏者のトリオ。
このツィンバロンという楽器、一見小型のピアノのように見えるかも知れない。しかし鍵盤はなく、専用のバチで弦を直接叩く、中国でいうところのヤンチン族の楽器の大型のものだ。しかもヤンチンと違って、ペダルで弦全体をごそっと開放したり、ミュートしたりといった、ピアノでいうところのダンパーの機能が備わっている。これによって、現代のピアノと同等とまでは言わないまでも、少なくともヴィブラフォンくらいのクリアさで、変わっていく和音を濁らせずに響かせることができるのだ。そして、この楽器の奏者がバンドの中にいるということが、伝統的なジプシー音楽を特徴づける要素のひとつらしいのだ。

まあそんなことはともかく、ひとたび始まった彼らの音楽は、まさに軽妙で洒脱。クティ氏のフィドルは、どんな超絶技巧を要するフレーズでも、実に軽〜く軽〜く演奏しているように見えるし、彼らがしばしば見せる、情熱的で急激なテンポの変化なんかも、適度にルーズに、ユル〜くこなしている感があって、彼らの茶目っ気たっぷりな弾きっぷりとあいまって、とにかく楽しい!!! めちゃめちゃ美味いハンガリアンのスープや肉料理を食べたり、おしゃべりしたりしながら聴くには、最高な感じ。とはいえ、そこには確実に、あるこだわりを持って鍛錬された、確かな技術があって、ミュージシャンである僕はしばしば、それに耳が釘付けになってしまうのであった。また、「チャールダシュ」や「ホラ・スタッカート」等、僕が現時点で知っているジプシー音楽のほとんど全てを網羅した彼らの選曲も嬉しかった。
そして彼らのステージのラスト・ナンバーは、ブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」。この曲、近年、実はブラームスの作曲ではなく、彼がジプシー音楽家レメーニイから教わったメロディーの編曲だった(!!)ということが明らかになったりしているらしいが、彼らの演奏は、普段日本で聴かれるような「ハンガリー舞曲」と較べると、かなり自由奔放でentertainingな感じ。まるで、自分たちのオリジナルを演奏しているかのような(だからどう演ろうが、うちらの勝手でしょ!!!! みたいな)妙な説得力があった。そして、そんな演奏が、他のお客さんにも大うけだったのだ。僕は、すかさずステージに駆け寄り、僕の大絶賛の言葉とともに、ロバート・クティ氏と連絡先を交換し、そのレストランで売られていた、ロバート・クティ&ヒズ・オーケストラのCDを購入した。

ところで、なぜ、ジプシー音楽の編曲作品がなぜ「ハンガリー舞曲」なんだろう??????? 「ジプシー(風)舞曲第何番」でいいのでは・・??!!!

2005/04/12

朝、起きぬけの時間に、昨日購入したCDを全部聴いてみる。これらのCDを聴いてみて思うのは、例えば、リストの「ハンガリー狂詩曲」とか、ブラームスの「ハンガリー舞曲」といった、クラシックの名作は、ほとんどジプシー音楽なんじゃないかってこと。それに対して、ハンガリーの伝統音楽は、ジプシー音楽とは音階がかなり異なっている感じがするし、イスラム圏の音楽や、ケルトの音楽にあるような、微妙な音程が含まれている。確かに、速いギャロップ系の「ブンチャブンチャ」なリズムに乗って、ヴァイオリンがメカニカルなフレーズを弾きまくるようなシーンでは、両者は似ていなくもない。でも、今回僕が購入したCDを聴く限りにおいては、両者は根本的に違っているように思える。

現時点での感想は、
ハンガリー伝統音楽=深い精神性があって、重みがある。
ジプシー音楽=下世話で享楽的。
でも逆に言うと、
ハンガリー伝統音楽=陰気くさくて、マニアック。
ジプシー音楽=誰にでもわかるポップさがある。

現在主に日本のポップ・シーンで仕事をさせてもらっている身としては、自分のヴィジョンをどれだけポップに表現できるか、ということは、かなりの関心事であることから、このジプシー音楽のスタンスには、ある程度、共感できるところがある。

まあ、午前中いっぱいそんなことを考えながら過ごした僕は、午後から、「バスで行く市内観光ツアー」に参加した。
ブダペストを紹介する観光書には必ず書かれているように、ブダペストは、ブダとペストという言葉が合わさってできた地名だ。山の手であるブダ地域と、平地であるペスト地域の間にドナウ川が流れている。このツアーは、簡単に言えば、ペスト(平地)のリッチな名所旧跡を訪ね、その後ドナウ川を渡り、ブダ(山の手)のリッチな王宮を満喫するというもの。ハンガリー語、英語、ドイツ語に堪能なエリザベスおばさんの、楽しいトークとともに、ブダペストの「おいしい」ところを、約4時間でめぐる観光ツアーだ。

ハンガリーは、今でこそ、それほどリッチな国とは思われていないけど、ある時期(1900年くらい)には、恐ろしくリッチで(あるいは恐ろしく富が偏在して)あったのは明白で、びっくりするような、手間と富をつぎ込まれた街づくりの跡があちこちに見られる。

僕たち観光客(アメリカ人、ドイツ人、イギリス人を含む)がバスを降りて、エリザベスおばさんの後にくっついて、王宮の丘を歩いていたときのことだ。けたたましいクラクションを鳴らしながら、僕たちの歩いている歩道に、猛スピードで近づいてくる車があった。そして、その車は、僕たち歩いているすぐ横に止まったのだ。警察の車でもなく、いたって普通の乗用車が我々に何の用なのか? みんなが不安な面持ちになる中、その車の中から、ひとりのヨーロッパ系白人の青年が飛び出してきて、僕に向かって、こう言ったのだ。
「I saw you in Frankfurt!!!! (フランクフルトであなたを見ました!!!!)
You are really great!!!!!!」
ありがたいことだ。僕は「Thank you!!!!」と言うしかなかった。そして、僕は、このツアーに参加した他の観光客たちの好奇の眼差しの前で、自分がミュージシャンであることや、先週、フランクフルト・ムジーク・メッセで仕事をしていたこと等を話さねばならなくなってしまった。

そんなことがあった後、このツアーに参加したアメリカ人夫妻のだんなさん(50代後半に見える)が僕に言う。
「あなたはとても魅力的(adorable)だ、そして、とっても強そうだ!!!! それに、あなたは、ジャッキー・チェンに少し似ている。」

おおよそアジア系の男は、ジャッキー・チェンにはものすごく感謝すべきであろう。というのも、彼は、
「優しくて、礼儀正しくて、いつも微笑んでいて、柔道や空手やカンフー等の武道に精通し、比較的小柄であるにもかかわらず、大男をばったばったと倒せるくらい強い」という、アジア人男性に対するパブリック・イメージを、彼の出演する映画作品によって、作り上げてしまったようなのだ!!!! 

もちろん、映画のようにはいかないのが人生の常。しかしながら、外国の人々が、僕らアジア系男性に対する、こういったポジティヴなイメージを、僕らが何ら苦労することなく、あらかじめ持ってくれているのなら、僕は、外国の人々が、最低限失望しないくらいの日本人としての自分を、少なくとも彼らの前では、演じられたら、と思う。なかなか難しいことだけど・・

下の写真は、名所「漁夫の砦」を散策中、イタリア人の修学旅行っぽい集団に取り囲まれたところ。女の子たちがとっかえひっかえ寄ってきては、俺の横で記念撮影をしていく、という異様な光景をこっちも撮ってやった。俺のルックスがよっぽど珍しかったんでしょう。おいこら!!!! 見せもんじゃねーぞっ!!!!!!!

まあ、そんなこんなで、楽しい観光ツアーも終わり、今日の夕食は、日本料理店「富士」で食べることに。ここは、ハンガリーでも数少ない日本料理を楽しめるレストラン。掘りごたつ風の座敷の席があったりして、とっても居心地のよいところ。また、日本のお寿司屋さんや、居酒屋、定食屋、うどん、そば屋等で食べられるものは、ほとんどメニューにある、といっても過言ではないくらいに、すさまじくメニューが充実していて嬉しくなってしまう。

このレストランのマネージャーであるTさんとお話をすることができた。彼女は、日本の音楽大学でピアノと声楽を学び、ここブダペストにピアノ留学をしたときに、この地に魅了されて定住。現在は、その堪能なハンガリー語を生かして、ここブダペストでビジネスを展開するまさに才媛なのだ!!!!

ハンガリーに詳しくて、しかも音楽に精通した日本人に、こんなタイミングで会えるなんて、なんと奇跡のような確立!!!! 僕は失礼もかまわず、Tさんを質問攻めにしてしまう。そしてTさんは、忙しい仕事の合間にもかかわらず、ほんとうに親切に、いろいろなことを僕に教えてくれた。またそのひとつひとつが、いかにも聡明なTさんの話の上手さとあいまって、僕はインスパイアされまくってしまった!!!!! そして、このTさんとの出会いが、僕の「ハンガリー伝統音楽と、ジプシー音楽にまつわるちょっとした旅」を、より濃厚なものにすることになったのだ!!!! 
Tさんと。

<つづく>

<つづき!!!!>
2005/04/13

ブダペスト市の名所のひとつである、ユダヤ人教会「シナゴーグ」を訪れる。

ここの礼拝堂に入るためには、男は小さな帽子をかぶらなければならない。帽子を持っていない観光客は、入り口で貸してもらえる。

この帽子、あまりにちっちゃいし、また、それを頭に固定するための器具もないため、常にその存在を頭のどこかで意識していないと、落っこちてしまう。これはすなわち、自分の上にあるもの(つまり神様)を常に意識しろ、という意味があるのだそう。逆にカトリック教会では、帽子をかぶっている人は、礼拝堂に入る際にそれを脱がなければならない。これも神様へのリスペクトを示すためだ。

それはともかく、このシナゴーグでは毎日、ユダヤ伝統音楽のコンサートが行われていると、ガイドブックには書いてあった。ユダヤ人の偉大なる音楽家たちの演奏は、ホロヴィッツしかりアシュケナージしかり、バーンスタインしかり、いっぱい耳にしてきたけど、ユダヤの伝統音楽というものがあるというのは、恥ずかしながら知らなかった。そこで、受付のお姉ちゃんに訊いてみた。
「今日、ユダヤ伝統音楽のコンサートはありますか?」
「ああ、コンサートはありますけど、うちでやってるのは、ジプシー音楽のコンサートですよ」
ええ〜っ、ガイドブックと違うじゃん!!!! ここブダペストでは、いろんなレストランにジプシーのバンドが入っているから、ジプシー音楽は比較的簡単に聴くことができる。でもそれ以外の(大きなコンサート・ホールで聴くようなクラシックでない)伝統音楽を、どうしたら聴くことができるのだろう?????

さてさて、シナゴーグを後にした僕は、先述のTさんに教えてもらった、ハンガリーの民族楽器の店を訪れる。ジプシー音楽に必要不可欠なツィンバロンは、当然のことながら置いていない。ヴァイオリン族の楽器や、マンドリン族の楽器(といっても日本の琵琶ぐらいの大きさ)とか、ハーディーガーディー等が、ところ狭しと並んでいて、とってもキュート。

そして、その次に僕が訪れたのが、かの「フランツ・リスト音楽アカデミー」。ここには、すばらしい音響のコンサート・ホールがあったり、様々な様式が折衷された美しい建築物があったりするものの、基本的には学校である。僕はTさんから、この学校への「忍び込み方」を教えてもらっていたのだ。というのも、ここは、「こんなところから入るの????」と思ってしまうくらい、小さくて狭い入り口しか用意されていないのだ!!!!(コンサートが開かれるときには、もちろん別の場所にある、それはそれは大層な入り口が開くんだけどね・・) それは、幅70センチくらい、高さが2メートルくらいの、地味な赤い扉。「フランツ・リスト音楽アカデミー」という表示は、かろうじてあるものの、観光客の誰もが、ここがかの名所の入り口だとは思わないであろう。

ところで、このフランツ・リストのLisztという綴り、みなさんは、「なんでzが入ってるの?」と思ったことはないだろうか? 知ってる人もいるとは思うけど、ハンガリー語では、sが単独だとローマ字でいうshの発音になってしまい、Listと書くと「リシュト」になってしまうのだ。ハンガリーによくある苗字Szaboをサボーと読むように、この国ではszと書いて、いわゆるローマ字のsの発音になるそうだ。同じくcはローマ字のts、jはローマ字のyにあたるそう。そんなわけで、僕の名前をハンガリー風に書くと、
Nisiwaki Tacuja
となる。(ハンガリーの名前表記は姓-名の順だからね)しかしながらこれでも万全ではなく、「ニシヴァキ」と発音されてしまう。ハンガリー語には日本語の「ワ行」の音がないのだそう。

さてさて、話はそれたが、この「フランツ・リスト音楽アカデミー」の建物に入ると、すぐに気持ちのよい音楽が聴こえてきた。この建物の1階は、クロークやちょっとした飲食ができるスタンド、ブダペスト中のコンサートのチケットが手に入る、チケピみたいなスペースがあって、同階のコンサート・ホールに続くエントランスになっているのだ。そして、その音楽は、そのコンサート・ホールから聴こえていたのだ。

覗いてみると、学生オーケストラらしき楽団が、リハーサルをしているようだったので、しばらく見学させてもらった。

このコンサート・ホールには、財政難のブダペストが、破格のお金をかけているそうで(これは先述のTさんからの情報)楽器とホールが一体になってサウンドを作っているような、すばらしい音響が実現している。しかも、楽器の音の輪郭が全くぼやけていない。こんなすてきなホールで練習できたら、さぞかし上手くなれるんだろうなあ〜

などと思いつつ、この時点で午後4時ごろ。実は、今日は朝からTさんと連絡を取り合っていた。というのも、Tさんは今日は仕事が休みなのだ。だから、
「もしTさんに予定がなければ、夕方からの時間を、是非ご一緒できませんか」とお願いしたところ、快く承諾していただき、当音楽アカデミーまで来てくれるとのこと!!!!! 

そんなわけで、フランツ・リスト音楽アカデミーのエントランスで、Tさんと落ち合った僕は、Tさんとともに、この学校の図書館を訪れる。Tさんが、図書館スタッフとうまく交渉してくれたおかげで、この図書館所蔵の楽譜を閲覧させてもらえることになった。これがまた、僕が日本では決して見つけることができなかった、希少楽譜のオンパレードなのである!!!! 「ウォ〜〜〜!!!!」と声を上げてしまうのを抑えつつ(ここは図書館だからね・・)僕は夢中になって、それらの楽譜を見させてもらった。ここでは、もし気に入った楽譜があれば、有料で(といっても、とっても安価です)コピーしてもらうこともできる。だから、僕は、100数十ページものそれをコピーさせてもらった。しかも手間のかかる表裏印刷で!!!!!!!!!!!!

フランツ・リスト音楽アカデミーを後にした僕らは、フランツ・リスト・スクウェアのいい感じのカフェで、軽食を取った後、路面電車でブダ地域(山の手)に向かう。Tさんお薦めの集会場に行くためだ。

なぜ「集会場」がお薦めなのかといえば、そこで、毎週、生バンドの演奏を伴った、ハンガリーの伝統ダンスの集会が行われているからなのだ!!!! おおっ!! やっとハンガリーの伝統音楽を生で見れるではないか!!!! 
この集会は夜8時から行われるということで、夜8時にここに来てみたのだが、何かが始まるという様子が全くない。もぬけの殻状態。ああ、やっぱりみなさん時間にはルーズなのね・・・ということで、この集会場の隣の建物にあるパブで、時間をつぶすことに。それにしても、この辺りでは、日本人はおろか観光客に全く出くわさない。

そして、実はこのパブも、生演奏のできるステージのある、ちょっとしたライヴ・ハウスだったのである。

僕らが、Tさんお薦めのめちゃめちゃ美味い地ビールを飲んでいると、このステージに3人のミュージシャンが現れた。フレンチ・ホルン奏者のおじさん、リード・ヴォーカルとフルートのおねーさん、そして、ピアノ奏者のおねーさん。バンド名は「ボラゴ・トリオ」

こんな独特な編成で、いったいどんな音楽を演ってくれるのだろう? と思っていると、ホルン奏者のおじさんが、僕たちに気づいて、ステージ上から僕たちに向かって、なんと日本語で語りかけてくれた!!!! 
「わたしたちのコンサートにお越しいただき、ありがとうございます。これから、ハンガリーの伝統音楽を演奏します。」 後で知ったのだが、このホルンのおじさんは、金沢シティー・フィルに数年間在籍したことがあり、日本語にも堪能だとのこと。

そして始まった、彼らの演奏がめちゃかっこいい!!!! すごく息があっている。そして、ほとんどの曲が変拍子!!!! 5拍子、7拍子は当たり前、中には13拍子のものまである。そんな変拍子の中で、自由自在に唄いきってしまう、リード・ヴォーカルのおねーさん!!!! 特筆すべきは、ホルンのおじさん。フレンチ・ホルンのめちゃ広い音域を生かして、あるときはベースに徹し、あるときは高音域を使ったクレイジーなアドリブ・ソロ、という具合に、僕が今まで聴いたこともないような、フレンチ・ホルンの多彩な演奏を聴くことができた。しかも、メンバー全員が唄えて、3声のハーモニーのきれいなこと!!!! 

確かに、リード・ヴォーカルの彼女の唄には、先述の「微妙な音程」が少なからず含まれていて、メロディー的には、僕が知っているハンガリーの伝統音楽そのものなのだが(後で知ったことだが、彼女は幼いころから、ハンガリーの伝統唱法のトレーニング積んでいるとのこと)和声やリズムが、ジャズ的なモダンさを兼ね備えていた。

ほぼ満席状態のこのパブは熱狂状態!!!! ライヴ後、僕は、ホルンのおじさんに駆け寄り、絶賛の言葉とともに、こう訊いてみた。
「これは本当にハンガリーの伝統音楽なんですか?」
「もちろんそうです」とおじさん。
「でも、アレンジがかなり現代的ですよね」と僕。
「その通りです。そして、それがまさに私たちがやろうとしていることなのです!!」
そう言うと、おじさんは、メール・アドレスが書かれた紙と、「ボラゴ・トリオ」の4曲入りのCDを僕に手渡したのだった。
「日本に帰ったら、このコンサートのことをみんなに言おうと思ってます!!!!!!」

さてさて、このころには、隣の集会場から、なにやら楽しげな音楽と、大勢の人間が床を踏み鳴らす地響きのような音が聞こえ始めていた。で、集会場に行ってみるとこんな感じ。

日本でいう小学生のような子供から、大人まで、バンドの生演奏に合わせて、踊りまくっている!!!!!!!! しかも、このダンス集会は、夜中の2時まで続くのだ!!!!!!!!!

下の写真がそのバンド。

大太鼓がステデ4分音符を刻み、マンドリン族の楽器が強烈なストロークで細分化されたリズムを作る中、ヴァイオリンや笛がメカニカルなフレーズを弾きまくる。例えば、映画「タイタニック」でケイト・ウィンスレットとレオナルド・ディカプリオが、船の中の、よりランクの低いフロアー(として描かれていた場所)で、生バンドを伴ったダンス・パーティーで踊りまくるシーンで流れていたような音楽、と言えばわかりやすいだろうか・・もちろん、この音楽はアイリッシュの伝統音楽だったけど、共通点が多いように思える。とにかく、とても土着的な印象がある反面、実は、これがユーロ・ビートとかハウスとか言われている現代のダンス音楽のヨーロッパ的なルーツなのでは??? と思えてしまうような、ダンス音楽の熱狂のあり方をも、僕は感じてしまった。

そんなわけで、今日は、Tさんのおかげで、ハンガリー伝統音楽の、よりモダンに演奏された姿と、よりプリミティヴに演奏された姿を、見ることができたわけだ。

ところで、Tさんによれば、ジプシー・ミュージシャンの中にも、レストランのバンドとは違った、よりアーティスティックな形で、ジプシー音楽を表現しているミュージシャンもいるのだそう。今回の旅では、そんなジプシーのミュージシャンに会うことはできなかったのだが、興味深いところだ。

なにはともあれ、Tさんにはほんとに感謝です!!!!!!!!